バブル真っ盛りの頃、メーカーに勤務していました。べらぼうに儲かっていたのは株屋さんとか金貸し屋さんとか不動産屋さんです。
メーカーはひたすらコストダウン、コストダウン。爪の先に灯をともすような努力が空しく感じられました。
若造だった私は「これからは証券の時代、本業で儲けるより、資産運用で儲けるべきではないか?」と主張しました。実物経済で儲けるよりもマネー経済の方が成長速度が速いと考えたのです。
私の尊敬していた諸先輩たちは、私の考えをコテンパンに否定しました。
とくにT室長代理とかT部長は実物経済の価値を諄々と説いてくれました、仰ることはもっともでした。
でも昨今の世界経済は、またマネーゲーム隆盛の感があります。バブルはゾンビのごとく何度でも生き返ります。
会計制度がすさまじい勢いで変わってきています。その変化の底流にあるのは国際会計基準であり、時価主義会計の流れです。
時価主義とは、資産や負債を時価で評価し直して利益を計算する手法です。この手法を悪用すると資産の値上がり益を狙うのが利益を出す早道になります。かくて世界経済はマネーゲームになってしまいました。
会計学では経営成績を表すのが「損益計算書」で、その結果としての財政状態を示すのが「貸借対照表」だとされてきました。
私も偉そうに(?)著書に書いてきました。
この場合、原因が「損益計算書」で結果が「貸借対照表」だともいえます。時価主義会計が跋扈(?)してきて、この理屈もだいぶ怪しくなってきた気配があります。
時価主義会計の行き着く先は、どうも「包括利益」とやらになるようです。
包括利益って何かというと、(たぶんに私の偏見も入っていますが)本業で設けた利益も、資産や負債の含み益や含み損も、すべて「包括して計算した利益」のことをいうようです。
ただこの利益だけで判断してしまうと優秀なファンドマネージャーが立派な経営者だということになりかねません。会計学の理念を大切にした会計制度が望まれるところです。
【今回の推薦本】
田中森一は「反転 闇社会の守護神と呼ばれて」がベストセラーになってから、随分とマスコミに登場するようになって、いくつか共著を出しています。
この本は反転とは違った意味で興味深い内容になっています。
田原総一郎がするどく切り込んで、それに田中森一が本音で答えていることで、田中森一が弁護してきたバブル紳士や田中森一自身の人物像が鮮やかになってきます。
誰かに聞いたのですが「バブルでいい思いをした人間は、みんなあの時代の興奮と快楽が忘れられない」そうです。
この本を読んで、「田中森一もそのひとり」の感がしました。
(このブログは毎週木曜日に更新予定です)